南ア南部/大井川西俣継続遡下降(悪沢遡行〜荒川三山縦走〜瀬戸沢・小西俣下降)


2025年7月19〜21日(前夜発2泊3日)
メンバー:ナベ(記)・ハルカ
形態:沢登り&縦走


「リニア・南アルプストンネル工事反対の意思を沢ヤは沢を登ることによって示す。大井川上流部の谷の豊かさを自らが登ることによって外部に発信する」
2025年6月上旬、「南アルプスを救う沢祭りご賛同のお願い」との題でぶなの会田中氏から頂いたメールに添付された、焼津在住服部氏の一文である。
要するに、リニア建設に伴い、二軒小屋から先の西俣で、リニア用の斜坑(実際にリニアが走るメイントンネルとは別の、資材搬入路や非常用脱出口など)建設が予定されており、これが大井川源流域水源に大きな影響をあたえ、ひいては生態系に影響を与えるのではないか?と言う懸念が上がっており(現に岐阜でリニア工事に伴い水が枯れたという報道があり、至極当然の懸念であろう)、この懸念を持つ一派かつ山屋である焼津の服部氏(ちーむやくたあもにゃあ)が発信、これを田中氏が各方面に転送した、というものである(と私は認識している)。

山屋的に美味しいのは、普段東海フォレストの山小屋を使わないとバスを利用できない東俣林道を、本沢祭りに参加して「調査登山」と言う形にすれば、普段自家用車で進入できない東俣林道に堂々と進入できるというのである。こりゃあ楽だなあ…くらいにしか考えずに会内に上記メールを共有したところ、ハルカ嬢がやや前のめりに賛同。本当は「調査とはカスるくらいの位置だけど、赤石沢とかメジャーな所でいいかな…」とも思っていたけど、結局、ハルカ嬢に引っ張られたところもあり、檄文の中で調査要請のあった悪沢と瀬戸沢の2本を無理やり継続遡下降することとした。
体力的にイケるのか?とかなり心配のあるプランニングであるが、計画してみるとやる気がわいてきた。荒川三山が登れるし。
ハルカ嬢は電話でしか連絡できない服部氏との渉外を一手に引き受けてくれて、その中で林道進入許可取得の手間も伝わってきて、「わざわざ我々のために進入許可を取ってくれる服部氏・ハルカ嬢のためにも、恰好だけは付けないといけないな」とちょっと襟を正す格好となっていた所、出発直前にハルカ嬢から「なんか悪天で林道が閉鎖されるみたいな静岡県公式HPのWeb情報出てます」的な連絡があった。が、それは一時的なものだったらしい。すぐにその情報は消されたが、この影響で同時期に入山予定だったぶなの会は転進したらしい。こっちは逆に「ひょっとして怪情報で俺の登山の邪魔しようとしているのか?」(俺達山屋の自由=山登りを邪魔する奴は許さん)とヒートアップ。むしろモチが上がった。
新静岡Icから井川に入る県道の夜間工事はこの三連休は休工と言うことも確認し、戦いのゴングが鳴った。

7/19 7:15 二軒小屋ゲート発(マンノ―沢の頭・千枚岳方面の登山道から、大井川右岸の高いところに続く林道を目指す) 7:28林道(跡)に入る 7:50林道をあきらめて左岸へ渡る方針に 8:20吊り橋が切れていたので撤退 8:40再び二軒小屋 9:30悪沢出合 12:55  co2186mにて幕

前の晩は、新静岡から長い下道(県道189号〜60号)を経た為、確か到着が3時とかだった。おまけに、工事開始前に約1.5Hの林道を進まねばならない為、5時起き。ほぼ徹夜である。
平沼ゲートをハルカ嬢手配通り開放し、林道へ。部分的にだが身の危険を感じる林道で、特に赤石ダムのちょいさきは崩壊しつつある斜面に無理やり道を作っており「こんなん時間の問題やで…」と言う感じだった。

二軒小屋ゲートの左わきに駐車。沢の滝からのマイナスイオンがすごい。
事前研究不足から、「悪沢出合で大井川の渡渉ができるかどうか分らんから、地形図にある右岸の林道から行こうぜ」ということになるが、そもそもマンノ―沢の頭・千枚岳方面の登山道自体が廃道寸前だった(二軒小屋ロッジがリニアの飯場となり、登山者受け入れを行っていない事から登山道の整備をしていないためと思われる。そしてこれは服部氏檄文の本体である蛇抜沢遡行報告書の方にも書いてあったのだが、俺はその報告書を貰っていなかった。ハルカ嬢が持っていたが嬢は日本語の長文が読めない)。
当然林道なんか廃道of廃道で、「こんなんで悪沢まで行くのは無理だ」とすぐに判断、一旦大井川まで下りて、地形図にある橋を目指すが…


インディージョーンズごっこしないと渡れない橋

ほぼ朽ちており、インディージョーンズ的な冒険をやらねば向こうには行けなさそうだ。渡渉は…不可能な水量に見える。ハルカ嬢は「行けますよ!」とか言ってるが、行けるわけがない水量である。すぐ上流で発電施設からすごい水量を放水しており、その上流は全く穏やかなのが恨めしい。まあ他に手段がなく行かないと帰れないならワンチャンスに賭けて渡渉したかも知れないが、普通に撤退して出直せばいいだけなので撤退。結局1.5H無駄に体力を消耗した。
大井川左岸には立派な道がありスイスイ進む。悪沢手前でショベルカー2台でガレ沢のガレを除去する大規模な工事をしていたが、普通に通してくれた。
で、やっと悪沢出合い。悪沢は凄く水量が多い気がするが本流の渡渉は(放水口の上流のだめ水量が少なく)楽勝だった。
で、悪沢に入るが、大きくても3mくらいの小滝ばかりで、ゴム底沢靴のフリクションもバッチリのため楽勝。カムを0.75まで持ってきていたが、カム・ハーケンどころかザイルを出すことすらなかった…
小さめとはいえ釜が沢山あり、魚ちゃんの存在を調査登山としては確認したいところであったが、何しろ白泡が立っていて全然分からんままどんどん標高を上げる。
時間は早かったが、何しろ昨日寝ていないのと、あんまり標高上げると寒い等の理由から早々に幕。なかなかいいテンバだった。




水量多めで、渓相良好の悪沢。名前に反して悪い所はない。ゴム底沢靴がビタビタに決まる。





水量が多い。とはいえ困難な所はなく、荒川三山への良い登路




上部は小滝が多く沢登り感があるが、上部は「沢歩き」って感じになる。なお、上部は若干ヌメリあり。しかしこんな渓相なのでいくらでも河原を歩ける。


7/20 5:40 悪沢co2186m発 7:00 co2674m最後の二俣(水流から離れる) 7:30稜線(co2833m)千枚岳ピストン(7:46) 8:40丸山 9:30悪沢岳 10:37中岳 12:42高山裏避難小屋 14:00大日影岳南のコル(下降開始) 16:15瀬戸沢co2126m付近にて幕
本日も難しい所なくグイグイ進む。全然水が枯れず、2723m付近でまだ水流があったが明らかに地形図的には右が本流なので水流から離れて稜線を目指す(檄文本体の報告書の方には、「水源を確認して欲しい」と言った旨記載があったが、この時点で報告書本体を俺は読んでいなかった。ハルカ嬢は長文が以下略)。支尾根を一本右に乗り越えて大きな沢状に入り、乗り越えた支尾根に絡むような感じで沢の左寄りを登るとアッというまに稜線に出た。
ここからが本日の正念場。とりあえず千枚岳をピストンした後、長い縦走。驚いたのは前岳から高山裏避難小屋までの道で、稜線が完全に崩壊している。ザ・南アルプスと言う感じだ。ものすごい下りを下ると、膝がガクガクとなり、その後のちょっとした登りがしんどくて仕方がない。板屋岳の登りはなだらかだが本当にしんどかった。
板屋岳から先はどこから降りても目的の瀬戸沢だが、登山道を歩きながら見る瀬戸沢方面は倒木だらけのうっそうとした杉林or密なシャクナゲ・ハイマツで突っ込む気になれないうちにコルまで来てしまい、コルから下降開始。濃密なハイマツの歓迎を受けるが、このハイマツ、北アとかに比べて非常に密度が低く、乗るとしなって地面まで下りてしまい、むしろ屈強な「地に足のつかない藪」の方が歩きやすいと思った。小一時間藪をこぐと日本庭園系の苔むしたゴーロとなり、やがて普通の沢…というか、なだらかなんだけど所々小さい淵があって非常に釣り向きな沢となる。そこらじゅうテンバがあったが地形図的に良さそうなco2130mを目指すと案の定いいところがあったので幕。






二日目は稜線に抜ける感のあるツメから始まる



2723m付近で沢は左に曲がっていたが、地形図的には右っぽかったので右のガレに入る。もう少しで稜線なのに水が枯れない。



瀬戸沢への下降開始。ハイマツ君が歓迎。下りで小一時間かかったので登りだと大変なことになりそう。



ハイマツ帯を抜けると、日本庭園的な風景となる。



そしてすぐに水流復活。



7/21 5:15瀬戸沢co2126m付近幕場発 6:23小西俣・瀬戸沢出合 7:50西小石沢出合 8:30西俣堰堤 11:10二軒小屋
通行許可証があるとはいえ基本工事優先で、特定の時間帯しか通れない為、フリーパスとなる工事昼休み時間帯に二軒小屋に下山できるよう早立ち。
瀬戸沢は相変わらず釣り向きだが、魚影はよく分からない(3匹ほどは見た)。やがてゴルジュの様相を呈してくるが、左岸から大規模な崩壊が流入し、ゴルジュ区間の8割方が埋没しており無残の一言。
土砂・ガレは大型の樹木も含んでおり、南アルプス名物の中層または深層崩壊のようだ。この崩壊が無ければ、ゴルジュに守られた釣りゾーンを持つ沢として相当な価値があったと思うが…
やがて小西俣出会い。想定通り水量が多いのはいいが、河原かと思っていた所、本格渓谷の風情で、今日はおそらく平水+αくらいのため渡渉でさして苦労しないが、それでも「この渓相が二俣まで続いたら、二軒小屋着は夕方だな」と思うほど本格的で、美しかった。悪沢や瀬戸沢よりもむしろこのあたりに大井川源流域の真骨頂を感じた。
下岳沢あたりを過ぎると普通の大渓谷になっていくが、それでもなお雄大な大渓谷の風情は美しさを感じる。私は釣りはしないし(短気過ぎて)できないが、釣りが出来たらさぞかし楽しい沢であろう。

そして西俣堰堤に到着したが、目を疑った。今しがた降りてきた大水量の小西俣。それと同じくらいの水量を持つ中俣。その水の大部分が取水され、堰堤下はちょろちょろとした水流になっている。
こんなことやっていいの?発電のためにここまで水取っていいの?と思わざるを得なかった。
が、大井川は俺なんかの驚きを越えて、ちょっと下りだしたらあっという間に水勢が復活。
「ここまでやってたら、今更リニアのトンネルが出来ようが出来まいがもうどうでもいいのでは?すでに死に体だ」
「ただ、ここまで痛めつけられても大井川の雄大さはギリギリそれを乗り越えている感じもある。リニアが最後の一刺しになってしまうのでは?」
など色々考えざるを得なかった。
新蛇抜沢あたりからは釣り人も釣りあがってきた。
崩壊した林道から沢に降りて歩いていると、突然イワナが俺の横に飛んできた。すかさずキャッチした。単純に、俺の足音に驚いて飛び跳ねただけなんだろうけど、わざわざ俺の横に飛んできたことに何かの意味を感じざるを得なかったし、手の中でビチビチ跳ねるイワナの力強さに圧倒され、ちょっとフワフワした状態で二軒小屋に戻った。



瀬戸沢の下降で唯一クライミングっぽいことをした滝



瀬戸沢下部はゴルジュだったようだが、崩壊で完全に埋まっている。土砂崩れと言うより山崩れ。表層の灌木も根こそぎ落ちてきている。



小西俣



写真ではあまりきれいに映らなかったが、小西俣の瀬戸沢出合〜下岳沢くらいまでの区間は大迫力の大渓谷で素晴らしい。つまり増水すると渡渉不能でハマりそうな渓相でもあるのだが…。



下岳沢を過ぎるとだんだん緩んできて、上高地的な感じになる。これはこれでキレイ。



今降りてきた小西俣と、それに匹敵する中俣・北俣の水を飲みこむ西俣堰堤



西俣堰堤下の大井川本流。こんなに取水していいのか?
(しかし小一時間も歩くと普通に沢になっていた)



なぜか飛んできたイワナ



【感想】
悪沢は手ごろな初心者向けの沢、瀬戸沢は崩壊で下半部が死んだ沢となっており、三連休を使ってまで行く沢ではなかったが、瀬戸沢出合い付近の小西俣は本当に素晴らしい渓相だった。荒川三山も縦走できたし、トータルではいい山登りだったと思う。
「リニア・南アルプストンネル工事反対の意思を沢ヤは沢を登ることによって示す。大井川上流部の谷の豊かさを自らが登ることによって外部に発信する」との服部氏の檄文に感化されて今回参加した形だが、あいにく悪沢と瀬戸沢に豊かさは感じなかった一方で、小西俣の美しさは確かに万人に見て欲しいものであった。

また、今回初めて大井川界隈に入ったが、南アでも特に崩壊中らしく、もう山全体が崩壊の過程にあると言っていい。あの小西俣の美しさも、いつかは山崩れで埋まってしまうのだろうか。また、あの崩壊しつつある山の中で林道を維持しようとするのは相当無理がある気がするが…二軒小屋の辺りにリニアの緊急脱出口を作るらしいけど、この林道をずっと維持できるとは思えず、まあその場合はヘリポートを維持するのだろうか。脱出したはいいけど吹雪でヘリが飛ばない、極限状況でリニア乗客たちは…的な三文芝居が将来見られそうだ。

私は動植物よりも人間が大切だと思っており、人間の利便性向上のためにある程度自然が損なわれても仕方ないと思っているが(これが一ミリもダメだというなら商工業サービス業はおろか、農林水産業もダメということになるし、自然の害悪である人類は滅びよ!と言うことになりかねない)、問題はバランスだ。
小西俣の美は、「東大寺」とか「平等院」みたいな凄みがあった。もしあの美が失われるなら断固として工事に反対したい。みなさん、「東大寺潰すバーターでリニア引きましょう」って言われて納得するかな?みんな大井川源流域の美を見てないからその価値に気付いてないだけだ。
ただ、気付かれない物は、無いのと同じなんだよな…。


【テクニカルインフォメーション】
・悪沢は全体的にフリクションバチ効き。テンバ前後で若干ヌメリ部分があるが、短いので問題にならない。ゴム底系の靴と、念のためザイル30mもあれば十分。二軒小屋〜マンノー沢の頭〜千枚岳の登山道荒廃が進む中、二軒小屋から荒川三山への登路として結構イイと思う。何しろ登山道と違って涼しい。
・瀬戸沢は全体に茶色いコケが水流沿いを多い、ヌメリが多い。選べるならフェルト系の方が安心だが、ゴム底でもなんとかなるレベルのヌメリ。下降ですらザイルを使わなかったので登りでも予備的にザイル30mもあれば十分だが、下部の崩壊のガレが全然安定してないので、そもそもしばらく入渓しないほうがいいかも知れない。
・西俣堰堤〜二軒小屋間の林道は、悪沢から上流は崩壊箇所が多く、高巻いたり崩壊をへつったり一回沢に降りたりとかなりめんどくさかった。 (地図にある高い所を通っている林道は分からず、右岸の低い所にある林道跡を使った)



初日GPSログ
距離7.9km のぼり1154m くだり338m


二日目GPSログ
距離12.9km のぼり1515m くだり1582m


3日目GPSログ
距離12.6km のぼり297m くだり1047m

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