[山行日] 2008年5月2日〜5日
[参加メンバー] 石田さん、KMB
[天候] 山行中は晴れ
昨年も書いたけど剣岳を滑ろうと思ったのはいつ頃からだろう。スキーが高じ山を始めた時からの目標は谷川岳だった。
今から20年以上前に購入した、次田経雄氏の山スキーの本の表紙が、剣岳三の窓から池ノ谷左股に飛び込む氏の写真だった。本文中にも同じ写真があり、キャプションでは「いけのたんは行けない谷の意味か?」とあった。当時の自分にとって剣岳はあまりに遠く、恐ろしい山であった。
獨標登高会でクライミングの経験を積み、夏の剣やGWのR4を登った。沢筋であればスキー下降は問題ないと思っていたが、なかなか滑る機会がなかった。
頂上からスキーやボードで滑降できるなど夢にも思っていなった。そんななか2003年のGWにARIを主催する有持氏がフリートレックで剣岳の頂上からドロップしたとの報に接した。このときが自分でも剣岳の頂上から滑ってみたいと思った最初である。
それから3年後のGW。(2006年)この時は単独でフリートレックにより偵察に行った。室堂からの入下山。剣沢小屋ベース。長次郎谷をつめ、熊の岩から源次郎尾根2峰のコル〜頂上へ。あわよくばフリートレックでのドロップを考えたが、コフラックのプラ靴では足元が覚束ない。残念ながら長次郎のコルへ下り、そこから剣沢出合まで滑降した。
翌2007年はポストと言う心強いパートナーを得て、ハシゴ谷乗越から入下山。真砂沢小屋をベースとした。スノーボードを背負って、源次郎尾根を末端から忠実に辿り、頂上からのドロップを計画したが、なんと2峰のコルで懸垂待ちの渋滞にはまってしまった。6時間近く待たされ、懸垂したのは18:00を廻っていた。時間切れ敗退。薄暮の中2峰のコルからクラストした斜面を滑降。途中真っ暗な中、ヘッドランプを頼りに真砂まで下った。
そして今年2008年、石田さんというアルパインも滑りもこなすまたとないパートナーを得て、3年越しの3度目のチャレンジとなった。
はたしてどうなることやら...。
5月2日(金)雨〜晴れ
自宅発(20:30)−扇沢(1:45)
仕事を強引に打ち切り帰宅。何とか20:30に出発。
国道6号の首都高の表示は四つ木〜銀座60分!池袋周りも混んでいるので下道で新宿を目指す。
甲州街道がちょっと込んでいたが約1時間で初台へ、ここから首都高に乗る。この先が混んでいた。結局中央道の圏央道の合流の影響でそこまでたっぷり1時間以上。途中前が激しく屋根を叩く。そこを過ぎたら後は扇沢まで渋滞なし。駐車場は何とか1台分の平らなスペースがあった。ビールのチビ缶で明日からの好天を願って乾杯・就寝。
5月3日(土)晴れ
扇沢(9:30)−室堂(11:45)−雷鳥平(13:00)−別山乗越(15:15)−剣沢小屋幕営地(15:30)
6:30起床。7:30石田さんと待ち合わせだったが、朝出の石田さんは渋滞にはまり1時間ほど遅れるとのこと。渋滞での遅れは想定の範囲内。40分の遅れで到着。早速アルペンルートの往復チケットを購入。
この時間すでに観光客で大混雑。荷物をもっての移動はしんどい。
雷鳥沢の登りでは、ボードを背負いアイゼンを装着して登るKMBに対し、シールを装着してスキーで登る
石田さんではスピードが違う。自分が1歩出すたびに、石田さんは1歩で倍以上登ってしまう。ようやくのことで別山乗越到着。あとは剣沢小屋まで下るだけ。
幕営地ではホリエモン、3月の谷川で一緒に滑ったT田さん、昨年10月MTBで富士山を一緒に走ったホリエモンの友人と遭遇。彼らは本日剣沢を滑り、雷鳥平まで帰るとのこと。その後ゆっくり幕を張り雪の壁で防風対策。明日滑る予定の剣岳を眺めながらビールで乾杯。早々の夕食後、就寝。期待と不安で夜中に何度か起きた...。

トロローバス黒部湖駅

黒部ダム上を行く

室堂 大日岳をバックに

雷鳥沢の辛いのぼり(KMB)

雷鳥沢を登る石田さん

剣沢をくだる石田さん

剣沢幕営指定地

剣岳に乾杯(石田さん)
5月4日(日)晴れ
剣沢小屋幕営地(7:00)−長次郎谷出合(7;50)−熊の岩(8:50)−源次郎尾根2峰のコル(9:20〜9:40)
−剣岳頂上(11:30〜12:00)−平蔵谷出合(13:00〜13:20)−剣沢小屋幕営地(15:00)
緊張のためか昨晩はよく寝付けなかった。一昨年の同時期、剣沢をフリートレックで下った際は、気温が低くカリカリにクラストした斜面に、コフラックのプラ靴で足の筋肉を突っ張りながら長次郎谷の出合まで下ったが、今年は気温がエッジを効かせながら楽に滑る事ができた。途中石田さんが写真やムービーを撮ってくれた。
武蔵谷や平蔵谷出合を偵察しながら長次郎谷出合に到着。早速登高モードに換装。朝からかなり暑い。熊の岩で石田さんもシール登高から、スキーをザックに括り付け、アイゼン装着。源次郎尾根2峰のコルの急斜面を詰める。途中斜度が増し、ジグザグに登高する。昨年ポストと下ったラインを確認しながら「ああここを下ったんだ」と思い返す。
急な斜面を詰めると緩い雪稜になった。コルまであと一息。2峰を懸垂してきたクライマーから「ガンバレ!」のコール。本当にありがたい。昨年ドロップした2峰のコルで小休止後、頂上を目指す。尾根はいつしか雪壁に吸収され、踏み跡を忠実に辿る。
気がつくと前方にボードを背負った先行者が。後で話を聞いたら平蔵谷から上がってきた単独ボーダー氏。以前は山岳会に所属し、ボード歴は5年ほどとのこと。これから滑る大脱走ルンゼをインスペクションしながら頂上を目指す。
頂上は積雪が多く3002mほどか?最初は空いていたが3方向から続々とクライマーが集結してきた。
頂上の景観を楽しんだ後、12:00丁度、剣岳の一番高いところでボードを装着。いざ大脱走ルンゼへ。多くのクライマーがカメラやビデオを構える中、KMB、単独ボーダー氏、石田さんの順で傾斜が急になるところからドロップ・イン!アルパインクライマー憧れの八つ峰と源次郎尾根をバックに、なんと言う贅沢なシチュエーション!
グーフィースタンス(右足前)のKMBはバックサイドからのエントリー。右手に持ったピッケルが、斜面をなでる。傾斜は45度ほどか?雪質はザラメで滑りやすいが、足元から雪が崩れていく。斜面いっぱい滑りジャンプターン。こんどはフロントサイドだ。ピッケルを持たない左手が、ビッグウェイブに乗るサーファーのごとく斜面をなでる。
2〜3回のターンの後、雪崩をやり過ごしながら、ルンゼを下っていく。途中石田さんの撮影をしている間に単独ボーダー氏に追い抜かれた。「ノド」と呼ばれる両側をV字の岩稜に囲まれた細い部分は横滑りで通過。すぐ下にクレバスが走るが問題ない程度。安全圏に達し、単独ボーダー氏と石田さんの滑りを見上げる。
そのとき事件は起きた。ノド部分は雪崩の通り道がU字溝にえぐられ、そこにスキーを引っ掛けて転倒。カメラを構えていたため一瞬何が起こったか分らなかったが。その後、石田さんが頭を下に仰向けの状態で、スキーを逆ハの字にし、滑落してきた。U字溝のなか、あたかもベルトコンベアに運ばれるように、雪崩と一緒に目の前を下って行った。平蔵谷をシール登高中の2名パーティも異変に気付き、皆で「ピッケ
ル!ピッケル!」「ストック!ストック!」と大声で叫んだが、当人は何も出来ずに落ちていった。
途中1本のスキーがはずれ、石田さんの後を追うように流れていった。ノド部分から400mほどだろうか、ようやく止まった。遠望しているとしばらくしてから起き上がり、大丈夫とのコール。一同ほっとした。
外れたスキーを探しながら下るも発見できず、雪崩終着点をゾンデ捜索したが、見当たらない。上部で見守っていた単独ボーダー氏が雪面に光るものを見つけ発見してくれた。
ここから先は平蔵谷本谷をデブリが埋めており、右岸側へトラバース。高めの気温のおかげで、デブリをすべて粉砕しながら下る事ができた。平坦な斜面になっても。フォールライン沿いに前剣東尾根から、スラフによる溝が数十本も穿たれており、モトクロスのウォッシュボ-ド状態で滑りにくい。何度かノーズを刺しながら、ようやく出合にたどり着いた。
さてここからの登り返しが重労働。疲れた身体に鞭打ち。ようやく幕営地へたどり着いた。まだ日は高く、ホリエモンのいる雷鳥平まで行く事も考えたが、雷鳥平幕営指定地の喧騒を嫌い、剣岳を見ながらまったり余韻に浸ることにした。夕食後、本日の山行に思い出しながら20時就寝。

往路平蔵谷から見上げる大脱走ルンゼ

長次郎谷を詰める

源次郎尾根2峰のコルを目指す石田さん

2峰のコルに到着

頂上直下の単独ボーダー氏

頂上のKMB

頂上からドロップ・インする単独ボーダー氏

中間部を滑る石田氏

最も傾斜の強いところで斜度50度

ノド部分を見上げる

転倒直前の石田氏

平蔵谷本谷から滑ったルートを振り返る

2峰のコルを目指すKMB


八つ峰と源次郎をバックにドロップ・イン
至福の瞬間だ

頂上直下に描いたシュプール
5月5日(月)−晴れ時々雨−
剣沢幕営指定地(6:20)−別山乗越(7:10〜20)−雷鳥平(8:00)−室堂(9:00〜9:30)−扇沢(10:40)−大町温泉郷(13:00)−自宅着(22:00)
一仕事終えた疲れもあり、ゆっくりと出発準備。曇りがちで風が肌寒い。早々に撤収。別山乗越への斜面を詰める。雷鳥沢の広い斜面は滑りがいがある。下り終えると3月に谷川を一緒に滑ったN西さん夫妻に遭遇。石田さんが事前に入山の確認をしていたが、まさかばったり会えるとは...。ここから室堂まではもう一登り。疲れた身体にはきつかった。
室堂ターミナル周辺は観光客で溢れていたが、往路と違い扇沢方面へは混雑もあっけなく到着。荷物を整理し、石田さんとクルマで2台で大町温泉郷「薬師の湯」を目指す。露天風呂で疲れを癒し、屋内の洗い場に座ろうとしたとき、なんと隣がミンミンさんだった。いきなり自分の名前を呼ばれ、一瞬誰だか分らなかった。地元の会の4名で爺ヶ岳から鹿島槍をやってきたとのこと。
その後石田さんと大町温泉郷のバスターミナル横の食堂で昼飯(ソースカツ丼)を食べていると、またしてもミンミンさんたちと遭遇。クライマーは行動パターンが同じでお互い笑ってしまった。
ここで解散となったが、交通費節約のため下道で相模湖インターを目指す。連休の渋滞か、松本市内を抜けるのに2時間、その後も諏訪、韮崎、大月で混んでいて結局相模湖から高速に乗ったのが9時近く、自宅着は10時だった。さすがに運転の好きな自分でも、ちょっと疲れたか。
所感
3年越しの課題で、山行前は結構緊張していたが、実際は斜度も無く、雪質も良かったので今回の山行で特に問題はなかった。45度前後の斜面であれば何度も滑っているので恐怖感は無い。やはりエクストリームというのなら、60度は欲しい。まあ雪が付いている斜面であればどこでも滑るつもりだし、無ければ飛べばいい。ランディングが良ければ10mくらいのクリフは問題ない。
それより怖いのはやはり雪質だ。クラストしていれば滑落の危険があり、ピッケルも効かないだろう。パウダーであればスラブ(面発生表層雪崩)の危険がある。今回はザラメでところ所でスラフ(点発生表層雪崩)が発生したが、何とかよける事が出来た。
しかしながらスキーの大ベテランである石田さんが目の前で滑落するのを見て、山岳スキーは侮れないと再認識した。大胆な中にも慎重さが必要であると、改めて思い知らされた。
とりあえず課題がひとつ片付いたが今後もまだまだ宿題が山積みだ。谷川岳、不帰、五竜、鹿島槍等々。今回のルートをスキーで再滑降するのも良いだろう。ボードとスキーの両刀使いはあまりいないはずだ。 体力が続く限り、挑戦し続けたい...。

雷鳥平へドロップする石田さん

雷鳥平手前でN西夫妻と再会